<第2回>「 分けてもらうもの 」
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描く仕事が左前になり、
物販のアルバイトをしている。
九本入り千円の筆なども目の前にある。
一本が百円そこそこで、
なかなか安いが、そうそう売れない。
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わたしの母方の祖父は筆を作って
生業としていたそうだ。
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しかし、遠い記憶の中のおじいちゃんは
インスタントラーメンばかり作っていた。
食べきれぬからか、
わたしがせがむからか、
いつも半分をくれた。
おいしかった。
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当時、おばあちゃん、
つまりおじいちゃんの妻は
玄関先で駄菓子屋を開いていた。
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既に筆の注文は絶えていたのだろう。
筆を折ったおじいちゃんは駅の清掃へ
通っていた。
店は純駄菓子屋なのに、
近隣の子供たちからは 「ふでや」と呼ばれ続けた。
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今、わたしの机上にあるコンパスや
ディバイダ。
おじいちゃんが駅で拾って持って帰って
しまって、娘にあげたものだ。
後年、孫が使うとは想ったろうか。
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作った筆を納めには
奈良まで行ったそうだ。
筆なら奈良の名が売り易い。
少女のころの母はおとうさんの後を
ついていった。
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帰途、大阪の難波へ寄って、
もらったばかりの工賃で鰻丼を
食べさせてもらったのがたいそう
嬉しかったと聞いた。
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わたしはそのようすをたやすく想える。
わたしだって分けてもらったからだ。